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2020年4月1日 13:00東洋経済オンライン

3月31日、突然送られてきた「LINE」のメッセージに戸惑いを覚えた人は少なくないだろう。「第1回『新型コロナ対策のための全国調査』」と題されたそのアンケート調査のメッセージは、全国すべてのLINEユーザーに送信された。

厚生労働省は3月27日、「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定締結の呼びかけ」を民間企業向けに行った。新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化する中、各地域において感染経路の不明な患者やクラスター(患者間の関連が認められた集団)の発生を封じ込めるのが目的。民間企業が事業活動を通じて得ているユーザー情報を活用しながら感染拡大防止策を講じていく考えだ。

これにいち早く応じたのが、メッセンジャーアプリで国内首位のLINEだ。厚労省とLINEは30日、上記協定の締結を発表。LINEは同日、主にメディア向けに冒頭の全国調査を全ユーザーに配信する旨を告知し、31日の実施に至った。

LINEの利用者は8300万人に上る

LINEの国内アクティブユーザー数は8300万、そのうち毎日利用する人の割合が86%に上る(2019年末時点)。連絡手段として、メールや電話、ほかのSNSなどと比べてもメッセージを確認してもらえる確率が高い。加えて世代、居住地などにかかわらず幅広いユーザーに利用されているため、今回のように国全体の状況を把握したい目的にはうってつけのツールだ。

新型コロナウイルスの猛威が日本でも顕在化し始めた2月初旬、厚労省は関連情報の発信を行うためのLINE公式アカウント「新型コロナウイルス感染症情報 厚生労働省」を開設している。同アカウントの「友だち」登録者数は足元で130万に達しており、こういった伝達力や従前の協力体制も、今回厚労省がLINEに頼った一因だったと考えられる。

厚労省側の事情はさておき、LINEユーザーとしては、今回の全国調査で入力した情報がどう使われるのかが最も気になるところだろう。同調査ではまず、現在の体調についての選択式の質問があった後、普段行っている感染予防策、2週間以内の海外渡航歴、さらに年齢、仕事内容、居住地(郵便番号)について問われる。プライバシーに関わる項目もあり、おいそれと入力することをためらう人は一定数いるだろう。

LINEはこの全国調査について、「事態収束につなげられるよう、感染症のより正確な実態やクラスターの発生状況の把握につながるデータで行政の取り組みを支援することが目的」としており、「この用途以外(LINEの広告事業など)で調査結果を利用することはない」としている。

調査で取得したデータはまずLINE側で集計を行い、統計化したものを厚労省に提供、厚労省側で感染防止施策に役立てられるよう分析を進めるという。LINEはユーザーに対し、取得データを統計処理するため個人が特定されることはない点、目的の調査・分析後にはデータが速やかに破棄される点などを強調する。

既存データとの掛け合わせは行わない

LINEは通常の自社サービスを通じても、ユーザーの氏名や生年月日、住所などの入力情報、公式アカウントのフォロー状況やニュースの閲覧履歴から推測される興味・関心情報など、多数のデータを保有する。これらを総合的に分析することでアプリ内に配信する広告のパーソナライズ(個人最適化)を行っているわけだが、今回厚労省に提供する情報においては、「(LINE上の)既存データとの掛け合わせ分析はいっさい行わない」(LINE広報)という。

LINEのページには新型コロナウイルスに関する検討や実施などのために利用すると記されている(記者撮影)



ちなみにLINEは今回の調査を前に、同社が運営する調査プラットフォーム「LINEリサーチ」を通じ、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県に居住(登録情報ベース)のモニターを対象とする新型コロナ関連のアンケート調査も行っている。だが、この調査データに関しても今回の全国調査で得たデータとの掛け合わせ分析は行わない。

つまり今回LINEが担っているのは、厚労省から国民へ広く調査の存在を知らせて回答をお願いする役割と、集まったデータを統計化する役割。これらに尽きるということのようだ。

一方で、新型コロナの感染拡大防止策を講じるうえで、民間企業が普段の事業活動を通じて取得しているユーザーデータを活用しようとする行政側の動きもある。内閣官房、総務省、厚生労働省、経済産業省は31日、プラットフォーム事業者(IT・ネット大手)や移動通信事業者(携帯電話事業者)に対し、新型コロナウイルスの感染拡大防止に資する統計データの提供について連名で要請を行っている。

総務省の担当者は、今回提供を要請しているのは「あくまで個人が特定されない統計データ」と前置きしつつ、「データを活用し事業を行っている民間企業には有用なデータがたまっており、かつ、活用に関する知見もある。コロナ対策に活用できるものがあるのではないかという考え」と説明する。

総務省の担当者は「民間企業には有用なデータがたまっており、かつ、活用に関する知見もある」と話す(撮影:梅谷秀司)



具体的には、NTTドコモの「モバイル空間統計」のような、匿名化された“人の流れ”のデータなどを想定しているという。「こうしたデータを活用できれば、例えば先日の3連休に特定の場所で人の出入りがどう増えたかなどを見ることができる。ある地域、地点において人の動きを見るのは、外出自粛要請の実効性を検証するのに有効だということがすでにわかっている」(総務省の担当者)。

さらにクラスター対策に関しては、プラットフォーム企業が保有する検索履歴や 位置情報を役立てられそうだ。「コロナ」「感染症受付」といったワードの組み合わせなど、「コロナに関する検索履歴が特定地域で増えた、減ったという傾向を分析できれば、過去のクラスター感染との関係性が見えてくる可能性はある」(同)。

さまざまな企業側の反応

この要請に企業側はどう対応するのか。31日の取材時点で、「決まっていることはまだない」(NTTドコモ)、「要請内容を確認のうえ、対応を検討する」(ソフトバンク)といった回答が多くを占めた。一方で、「統計的な集計データを活用した新型コロナウイルス対策支援を検討しているが、どんな方法においても厳格なプライバシープロトコルにのっとり、あらゆる個人情報を共有することはない」(グーグル)という回答もあった。

TMI総合法律事務所・大井哲也弁護士は、企業が国の要請に応じてデータ提供を行うことについて、「データが統計情報である限り、個人情報保護法などに抵触することはない。 ただ、丁寧な顧客対応という意味では、(統計情報であっても)データの第三者提供に関する同意を取るのが望ましい」と話す。

さらに、大井弁護士は「仮に個人情報を扱うことになる場合、同意取得は困難である可能性がある。 提供する企業においては、法律解釈とレピュテーション(企業の信用性や評価)の問題がのしかかる」とも指摘する。

国も、企業も、個人も、コロナ危機の収束を願う気持ちは同じだろう。だが、「危機下だから」という理由で平時に徹底されてきたはずのプライバシー保護方針が揺らぐのは、消費者にとって決して望ましいことではない。国や企業には慎重な姿勢が求められる。

(長瀧 菜摘 : 東洋経済 記者)
(中川 雅博 : 東洋経済 記者)