世界各地で広がる新型コロナウイルス感染症「COVID-19」。治療薬やワクチンの開発動向をまとめました。(写真=米国立アレルギー・感染症研究所)

治療薬COVID-19の治療薬として候補に挙がっているのは、▽抗ウイルス薬レムデシビル(米ギリアド・サイエンシズ)▽抗インフルエンザウイルス薬ファビピラビル(富士フイルム富山化学の「アビガン」)▽抗HIV薬ロピナビル/リトナビル配合剤(米アッヴィの「カレトラ」)▽喘息治療薬シクレソニド(帝人ファーマの「オルベスコ」)▽皮膚エリテマトーデス/全身性エリテマトーデス治療薬ヒドロキシクロロキン(仏サノフィの「プラニケル」)▽膵炎治療薬ナファモスタット(日医工の「フサン」など)――など。 国内でもこれらの薬剤の投与がアカデミアによる観察研究や臨床研究として行われているほか、一部の薬剤については企業による臨床試験が始まっています。 レムデシビル(米ギリアド)レムデシビルはもともとエボラ出血熱の治療薬として開発されていた抗ウイルス薬。コロナウイルスを含む一本鎖RNAウイルスに対して抗ウイルス活性を示すことが明らかになっており、COVID-19の治療薬として最も有望視されている薬剤の1つです。 現在、中国(中日友好医院主導)と米国(国立アレルギー・感染症研究所=NIAID主導)で医師主導臨床試験が行われており、国立国際医療研究センターはNIAID主導の臨床試験に参加する形で国内でもレムデシビルの臨床試験を進めています。 これとは別に、ギリアドが日本を含む世界各国で臨床第3相(P3)試験を行っています。ギリアドの試験は中国と米国で行われている医師主導臨床試験のデータを補完するものになるとみられ、ギリアドによると中国での医師主導臨床試験の結果は4月に結果が得られる見通しです。 ファビピラビル(富士フイルム富山化学の「アビガン」)ファビピラビルは2014年に日本で承認された抗インフルエンザウイルス薬。新型インフルエンザが発生した場合にしか使用できないため、市場には流通していませんが、新型インフルエンザに備えて国が200万人分を備蓄しています。 ファビピラビルは、インフルエンザウイルスの遺伝子複製酵素であるRNAポリメラーゼを阻害することでウイルスの増殖を抑制する薬剤。COVID-19を引き起こす新型コロナウイルスもインフルエンザウイルスと同じRNAウイルスであることから、効果を示す可能性があると期待されています。 ただし、動物実験で催奇形性が確認されているため、妊婦や妊娠している可能性がある人には使うことができず、妊娠する可能性がある場合は男女ともに避妊を確実に行う必要があります。 日本では、富士フイルム富山化学が3月31日に国内でCOVID-19を対象にP3試験を開始したと発表しました。臨床試験登録サイトに掲載されている情報によると、対象は重篤でない肺炎を発症したCOVID-19患者約100人で、肺炎の標準治療にファビピラビルを追加した場合の効果を検証。富士フイルム富山化学はアビガンの生産をすでに始めており、増産の準備も進めています。国内で唯一、アビガンの原料であるマロン酸ジメチルを生産しているデンカは、日本政府からの要請を受けて5月から生産を再開します。 先行して医療機関主導の試験が行われた中国では、有効性が示されたとの結果が公表されています。富士フイルムは米国でもCOVID-19を対象としたアビガンのP2試験を開始。日本政府は希望する国にアビガンを無償提供する方針で、50カ国への提供を想定しています。 シクレソニド(帝人ファーマの「オルベスコ」)シクレソニドは、日本では2007年に気管支喘息治療薬として承認された吸入ステロイド薬。国立感染症研究所による実験で強いウイルス活性を持つことが示され、実際に患者に投与したところ肺炎が改善した症例も報告されています。 国内では日本感染症学会が主導する観察研究が行われており、全国の医療機関から報告を集めて有効性の評価を進めています。帝人ファーマは厚生労働省からの要請を受け、この研究のためにシクレソニドの供給体制を確保。国立国際医療研究センターも臨床研究を計画しています。 ロピナビル/リトナビル配合剤(米アッヴィの「カレトラ」)ピナビルはウイルスの増殖を抑えるプロテアーゼ阻害薬で、リトナビルはその血中濃度を保ち、効果を増強する役割を果たします。これらの配合剤であるカレトラは、日本では2000年にHIV感染症に対する治療薬として承認されています。 In vitroや動物モデルを使った研究でMERSへの有効性が示されており、COVID-19に対してもバーチャルスクリーニングで有効である可能性が示唆されました。CrinicalTrials.govによると、中国を中心にCOVID-19患者を対象とした臨床試験が複数行われていますが、中国の研究グループは3月18日付の米医学誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に、カレトラを投与しない群と比べて臨床的な改善までの時間に差はなかったとの結果を発表しました。 抗IL-6受容体抗体/JAK阻害薬サイトカインストーム(過剰な免疫反応)を抑制することで重篤な呼吸障害を改善する効果を期待して、新型コロナウイルスによる重症肺炎を対象に、免疫を抑える薬剤の開発も進められています。 スイス・ロシュは4月から、中外製薬が創製した抗IL-6受容体抗体トシリズマブ(製品名「アクテムラ」)のP3試験を米国、カナダ、欧州などで開始。中外製薬も近く、国内でP3試験を始める予定です。米リジェネロン・ファーマシューティカルズと仏サノフィも、共同開発した抗IL-6受容体抗体サリルマブ(同「ケブザラ」)のP2/3試験を欧米で実施中。日本でも近く試験が始まる見通しです。両剤はいずれも、日本で主に関節リウマチの治療薬として使われています。 スイス・ノバルティスは4月2日、サイトカインストームを伴うCOVID-19患者を対象に、JAK阻害薬ルキソリチニブ(同「ジャカビ」)のP3試験を準備していることを公表しました。日本では骨髄線維症と真性多血症の適応で承認されており、同社は「日本の規制を遵守しながら必要とする患者に届けられるよう検討していく」とコメント。JAK阻害薬では、トファシチニブ(米ファイザーの「ゼルヤンツ」)もイタリアで医師主導のP2試験が行われています。 その他国政府は抗マラリア薬リン酸クロロキンがCOVID-19に一定の効果を示したと発表しており、日本でも同薬と類似したヒドロキシクロロキンを投与して症状が改善した症例が報告。群馬大では、ロピナビル、リトナビル、ヒドロキシクロロキンの3剤併用療法の臨床研究が始まっています。東京大医科学研究所は、ナファモスタットがCOVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の細胞内への侵入を阻止する可能性があるとの実験結果を発表。近く臨床研究を始めるとしています。 既存薬を転用するアプローチで治療薬の開発が進む一方で、新規の薬剤を開発しようとする動きも広がっています。 武田薬品工業は4月6日、原因ウイルスSARS-CoV-2に対する高度免疫グロブリン製剤の開発で、米CSLベーリングなど5社と提携すると発表。6社は原料となる血漿の採取から臨床試験の企画・実施、製造まで幅広く協力し、ノーブランドの抗SARS-CoV-2高度免疫グロブリン製剤を共同で開発・供給します。武田は3月初めに抗SARS-CoV-2高度免疫グロブリン製剤「TAK-888」の開発に着手したことを明らかにしていましたが、6社の協力体制で開発を加速させ、供給量を増やしたい考えです。 リジェネロンはSARS-CoV-2に対する多数の抗体を特定し、このうち2つを混合したカクテル抗体の臨床試験を初夏までに始める方針。米ビル・バイオテクノロジーも2つの抗体を特定し、中国での権利を上海のウーシー・バイオロジクスに導出しました。ビルは米アルナイラム・ファーマシューティカルズと共同でSARS-CoV-2を標的とするsiRNA核酸医薬も開発中。米アブセラ・バイオロジクスは同イーライリリーと治療用・予防用の抗体を共同で開発しています。 ファイザーはSARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性を示すプロテアーゼ阻害薬候補を特定しており、今年7~9月期にも臨床試験を始める予定です。 ワクチン感染を予防するワクチンの開発も進んでいます。 モデルナのmRNAワクチンとイノビオのDNAワクチンが治験開始米国立衛生研究所(NIH)は3月16日、NIHの一部門である国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)と米バイオベンチャーのモデルナが協力して開発したmRNAワクチン「mRNA-1273」のP1試験を始めたと発表しました。CrinicalTrials.govに登録されている情報によると、mRNA-1237のP1試験は18~55歳の健康な男女45人を対象に実施。ワクチンを4週間隔で2回投与し、安全性と免疫原性を評価します。 米イノビオ・ファーマシューティカルズも4月6日、DNAワクチン「INO-4800」のP1試験を米国で開始したことを明らかにしました。試験は、健康成人40人に4週間隔で2回ワクチンを投与するもので、今夏の終わりまでにデータが出る見込みです。 新型コロナウイルスに対するワクチンの開発をめぐっては、ノルウェーに本部を置く「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」が、▽米イノビオ▽豪クイーンズランド大▽モデルナ/NIADI▽独キュアバック▽米ノババックス▽英オックスフォード大▽香港大▽仏パスツール研究所/豪テーミス/米ピッツバーグ大――とパートナーシップを締結。資金提供を行い、ワクチン開発を支援しています。 ノババックスは自社開発したナノ粒子ワクチンのP1試験を今年の晩春に始めるとしています。英グラクソ・スミスクライン(GSK)は、アジュバント技術の提供でCEPIの開発プログラムに協力。GSKはさらに、中国のクローバー・バイオファーマシューティカルズとも研究協力に合意しました。クローバーにもアジュバント技術を提供し、同社創製のワクチンの大量生産をサポートします。 米ファイザーと独ビオンテックはCOVID-19に対するmRNAワクチン「BNT162」を共同で開発しており、4月末までに欧米で臨床試験を始める予定。両社は製造能力の拡大も進めており、今年末までに数百万回分のワクチンを供給できる可能性があるとの見通しを示しています。米ジョンソン・エンド・ジョンソンも9月までにP1試験を始める予定で、「規制当局への承認申請後、2021年初頭に緊急用に利用可能になると見込んでいる」としています。 仏サノフィはCOVID-19ワクチンの開発で2つのプロジェクトを進めています。組み換えタンパク質をメースとするワクチンの開発に着手しているほか、3月下旬には米トランスレート・バイオとmRNAワクチンの開発に向けた提携を発表しました。 アンジェスや田辺三菱が開発に名乗り日本企業では、アンジェスが3月5日、大阪大とDNAワクチンを共同で開発すると発表しました。タカラバイオが製造面で協力し、化学大手のダイセルが有効性を高めるための新規投与デバイス技術を提供。アンジェスは「6カ月以内のできる限り早い時期の臨床試験開始を目指す」としており、同26日には非臨床試験の開始を発表しました。 田辺三菱製薬もワクチン開発に乗り出しています。同12日、カナダの子会社メディカゴが、SARS-CoV-2の植物由来ウイルス様粒子(VLP)の作製に成功したと発表。これを使ったCOVID-19向けワクチンの非臨床試験を行っており、「順調に進めば、ヒトでの臨床試験を今年8月までに開始するために当局と協議したい」(田辺三菱)としています。 このほか、アイロムグループのIDファーマは、中国・復旦大付属上海公衆衛生臨床センターとワクチンの共同開発で合意。両者はセンダイウイルスベクターを使った結核ワクチンを共同開発しており、その経験を生かして新型コロナウイルスに対するワクチンの開発を目指すといいます。

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