日本政府は、コロナ対策として現金給付や商品券の支給などを「かつてない規模で」検討しているようだ。コロナ経済対策として重要なのは、一時的生活保護の役割を果たし、同時に景気の下支えにもなる政策だろう。それは、ベーシックインカムそのものないし、「ベーシックインカム的」な政策であることが望ましいと筆者は考える。(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)

ボリス・ジョンソン英国首相がベーシックインカムを検討?

 ボリス・ジョンソン英首相が、新型コロナウイルス対策としてベーシックインカムについて「考慮すべきアイデアの一つだ」と述べたとのニュース(NHK「ベーシック・インカム検討 英首相 感染拡大の景気対策」〈3月19日〉)が伝わった。

 さすがに、英国でいきなりベーシックインカムが実現するとは思えない。けれども、「集団免疫の形成」を唱えた数日後に、図らずも(だと思うが)自らがコロナウイルスに感染して“人体実験”を行うことになったジョンソン氏の発言だ。本当にベーシックインカムに踏み込むかもしれないという期待が膨らむ。

 今回のコロナウイルスによる感染症は、観光業やサービス業、小売業、飲食業など、「日銭」で回っている業種に大きな打撃を与えた点で、金融危機が世界の景気後退につながって製造業にダメージを与えたリーマンショック時と異なる悪影響の現れ方になる。加えて、もちろん、需要が低迷すると真っ先に失業する非正規労働者やフリーランスが、経済的に弱い立場にあることは常に変わらない。

「景気」への対策以前に、こうした「急に経済弱者になった人」へのいわば「一時的生活保護」的なサポートが必要だ。加えて、ただでさえ消費税の増税で後退に陥っていた景気への対策が必要だ。

 現在、政府をはじめとして各方面で景気対策が検討されており、「かつてない規模」の対策を打ち出すつもりだという方針が伝えられている。

 あらかじめ望ましい対策の条件をあげるなら、(1)迅速であること、(2)公平であること、(3)十分であること、の3点が重要だ。

 筆者が思うに、一時的生活保護の役割を果たし、同時に景気の下支えにもなる対策は、ベーシックインカムそのものないし、「ベーシックインカム的」な政策であることが望ましい。

社会保障と再分配の要素を兼ね備えたベーシックインカム7つの長所

 ベーシックインカムとは、国民の一人一人に、無条件で定期的に一定額の現金を支給する政策だ。直感的に「変ではないか」と思う人が少なくないのだが、そうした人の多くが「よく考えてみると、合理的」だと思うような長所を備えた、社会保障と同時に再分配の要素も兼ね備えた政策だ。

 ベーシックインカムの長所を確認しよう。

【ベーシックインカムの長所】

(1)あらかじめ予想できる収入なので生活設計がしやすいこと

(2)使い道が自由であること

(3)公平に支給されること

(4)支給対象者を確認する手続きが要らないこと

(5)受給者が恥の感情を持たずにすむこと

(6)定額なので額が大きすぎなければ労働意欲を阻害しないこと

(7)他の社会保障制度よりも事務が簡素で低コストであること

 多くの人が誤解し、違和感を持つのは、お金持ちにも現金を支給することの当否だろう。この点については、ベーシックインカム単独で考えるのではなく、課税とセットで再分配効果を見るべきだ。

「高所得者(高額の資産保有者もだが)に高負担を」を実現したいなら、所得制限などの条件を付けて給付対象を調整し、さらに高所得者にはより高額な税金を課すような二重の調整を行うのは避けた方がいい。それよりも、所得税や資産税などで調整する方が簡素で透明性が高いからだ。

 また、ついでに言うなら、「財源がないのではないか」という心配は杞憂だ。ベーシックインカムで国民に現金が配られているのだから、課税できる対象は拡大しており、税金の負担能力は心配に及ばない。税制を再分配制度としても公平に設計すればいいだけのことなのだ。給付と徴税と両方を複雑化させるのは愚策だ。

 また、上記の長所(7)に関連するが、生活保護や雇用保険、年金などは順次ベーシックインカムに置き換え可能である。

 例えば、国民年金(基礎年金)を全額国庫負担にすると考えてみよう。この措置には、年金加入者1人当たり1カ月に1万6000円強のベーシックインカムを受給するのと同様の効果がある。特に所得が低い場合が多い若い人には効果が大きいだろうし、第3号被保険者(サラリーマンの専業主婦の妻)の相対的優遇措置がなくなるので、女性の労働参加を促進する効果がある。老後の無年金者が減るし、国民年金保険料の徴収作業も要らなくなる。その代わり、高所得者や資産家はより多くの税金を払う。こうした政策は、コロナ問題がなくても実行していいと筆者は思う。

コロナ対策として政府が検討している現金給付をどう考えるか

 政府は、コロナ対策として現金給付や商品券の支給などを「かつてない規模で」検討しているようだ。

 一時的な現金給付は、継続的に計算できる所得ではない点でベーシックインカムと異なる。ただ、国民に一律に現金を配るならベーシックインカムと似た政策になる。

 この政策は、(1)迅速に行えること、(2)使途が自由であること、(3)事務が簡素であること、(4)必要があれば大きな金額で実行できること、などの点で望ましい。

 日本の政策がしばしば陥りやすい「戦力の逐次投入」的な愚を避けて、迅速かつ大規模に行うことが適切だ。

 例えば、5月の連休前に国民1人当たり10万円を給付して様子を見るといい。財源は約12兆5000億円だ。現在の政府の口ぶりだと、もっと使うつもりがあるようだから余裕がある。

 必要があれば、2〜3カ月後にもう一度やってもいいし、景気回復期に消費を後押しするために、先に挙げた国民年金(基礎年金)保険料の無料化や消費税率の引き下げに使ってもいいだろう。

 当面は心配すべきではないが、将来インフレが問題になった場合に、分配の観点で妥当だと思われる対象に増税すればいい。コロナ対策は緊急を要するが、将来の増税については議論の時間がたっぷりある。政治家さんたちは、将来の税制について熟議してくれるといい。

 本人と扶養家族が受け取った給付は、所得に繰り入れて後で所得税や住民税の対象にするといい。現在の課税制度がまがりなりにも公平だというなら、税制の観点から問題はないだろう。サラリーマンは年末調整で課税額を調整すればいいし、フリーランサーなど確定申告をしている人も確定申告に反映させるといい。一律支給なので幾ら支給されたかは明確であり、ごまかしの余地はない。

 もちろん、不足する財源については国債を発行して、金融緩和政策の一環として日本銀行が国債の購入額を増やすことが重要だ。

時間を掛けようとする政治家は有害「所得制限」「使途制限」はするな

「対象者を絞って」、「ピンポイントで必要な人に」等と言って議論に時間を掛けようとする政治家は、与野党を問わず、自らが有害な役割を果たしていることに気づいてほしい。

 所得にせよ、業種や働き方にせよ、対象者の線引きは難しい。

 例えば、年収400万円未満の世帯を対象にした場合、年収400万円の世帯と、年収399万円の世帯で、実質的な所得に逆転が生じることが適切だとは思えない。また、小・中学校でクラスメート同士が、「お前の家は現金給付の対象なのか?」などと話し合うような給付金がいいとも思えない。

 飲食業者が困っているのは事実だろうが、飲食業者にさまざまな商品を納入している業者も売り上げが激減しているだろうから、業種で対象者を区分けするのも難しい。政治的な議論には、全くなじまない。

 また、景気対策としての商品券も、(1)無用に使途を制限する非効率性、(2)手続きに掛かるコストが非効率的、(3)現金給付よりも時間が掛かること、(4)対象商品の選定に生じる不公平性、といった問題がある。

 対策の迅速な決定と実行のために、そして何よりも受給者にとっての利便性の点で、特定業界への振興策をコロナ対策に持ち込ませないことが肝心だ。

 なお、給付金の受け取りを所得に算入して課税するといいというアイデアは優れていると思うが、これは筆者が思い付いたものではない。立憲民主党の海江田万里衆議院議員のメールマガジンに記されていた提言だ。

 野党第一党である立憲民主党は、党内に良いアイデアの持ち主がいるのだから、「給付金一律10万円の早期支給。その後に消費税率の5%への引き下げを求める」とでも方針を決めて、野党の中でリーダーシップを取り、与党に政策実行へのプレッシャーを掛けてはどうだろうか。

 もちろん、与党が迅速にこれ以上の政策を実行してくれるのでも構わない。お金は使うべき時に有効に使いたい。

 山崎 元 2020/04/01

https://www.msn.com/ja-jp/money/personalfinance/コロナ経済対策が「ベーシックインカム的」であるべき理由/ar-BB11YWf3